相原正明写真夜話Ⅱ

オールラウンドプレーヤー

 よく日本で紹介される時「風景写真家」という肩書で紹介されることがある。実はこれが一番困る。なぜならネイチャーフォトグラファーとか風景写真家という肩書はほぼ日本でしか存在しない。海外ではすべてフォトグラファー(写真家)。つまりこのジャンルだけという写真家はほぼ存在しない。全ジャンルが撮影できる、あるいは撮影するスキルは持っている。だが自分が得意とする分野はブライダル、物撮り、コンテンポラリー、風景とジャンルが加わってくる。なんでも撮れて、その中に自分の得意とする分野、あるいは生業とする分野あるいはカテゴリーが存在する。風景だけしか撮れない、ストリートフォトしか撮れない、これではプロとは呼ばれないし、自分でも呼べない。

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以前、オーストラリアで個展をしたとき、ギャラリーのスタッフでデイブさんという方がいた。彼は写真家でもある。以前はオーストラリア国防省のフォトグラファーで湾岸戦争にも従軍し、戦争の記録、特に飛行機の撮影にたけていた。平時はオーストラリアの国防省の兵員募集のための飛行機や戦車のカッコイイ写真も撮っていた。その後 退役していまはブライダルや動物を撮影している。彼に飛行機や戦場を撮っていたフォトグラファーがどうして、ブライダルや動物がとれるのか聞いてみた。すると逆に彼から「マサ?どうしてそんな質問するんだい。フォトグラファーなのだから何でも撮れて当たり前だろう。」と逆に聞かれた。日本では風景の人は風景、動物の人は動物しか撮らないと説明すると「信じられない、それはプロのフォトグラファーではない」と言われた。

 

2008年ぼくは画像処理システムで有名なアドビのイベントに招聘された。ライトルームのプロモーションイベントで「アドビ ライトルームアドベンチャーinタスマニア」でなぜかオーストラリア枠での招聘。名誉なことにアドビが世界から15名選ぶフォトグラファーに選んでいただいた。2006年のドイツ・フォトキナでの個展が評価されたことらしい。イベントは2週間アドビの新しく発売されるライトルームを使い、全世界に作品を毎日配信すること。参加するフォトグラファーはナショジオ、ボーグのオフィシャルフォトグラファー、コンテンポラリーアーティスト、ブライダルフォト、ランドスケープ、ストリートフォト、水中フォト、どあらゆるジャンルのフォトグラファー。そして毎夜、ミッションブリーフィングがあり、翌日の撮影課題がアドビから出される。その課題をこなし毎夜5点の作品をアドビのwebにUPするまでは作業は終わらない。しかも有名な方でもアシスタントを使うのは禁止 イベントの公用語は英語、さらに2週間ノーギャラの仕事。毎夜アドビから出される課題は、ストリートフォト、風景、コンテンポラリーなもの、ロケする街の特色をプロモーションするもの、ライトルームの機能を訴求する作品、参加しているフォトグラファー同士で、参加メンバーのポートレイトを、ペアになっておたがいに撮りあうなどなど山のように出てくる。でも誰も僕はそのジャンルは不得手だから撮れないとか、専門外だから撮れないとは言わない。毎日みんな黙々と課題をこなしアドビのwebに作品をUPする。

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日本では考えられないことだったが、世界では当たり前。ある時、アドビのプロデューサーが、最近、日本の北海道が欧米で人気があるのだけど、北海道の写真家の作品が見たいとのリクエスト。Webで北海道の風景を撮っている人と、動物を撮っている人の作品をお見せした。するとプロデューサーと参加フォトグラファーから、富良野の丘の作品を撮っているAさんのポートレイトの作品が見たいとのリクエストがあった。彼はランドスケープ専門だからポートレイトはないというと信じられないとの答え。動物のBさんも同じ質問が来て同じ答えをすると、全員が失望の表情。アドビに参加している、伝説のフォトグラファーは、「自分が2週間北海道にいたら、彼ら以上の作品が撮れる」と断言した。僕はそれは事実だと思う。ここに集まる世界のTOPの実力をいやというほど見せつけられた。つまり何でも撮れて、その中で自分の得意分野を持たないと世界では通用しない。でも、人によっては自分は風景しか撮ったことがないというかもしれない。だがよく考えてみると、この世界の森羅万象すべてが光と影から成り立っている。光と影と時間の組み合わせが写真。光と影と時間の組み合わせが写真。ならば被写体が変わっても、自分の視点を持っていれば何でもこなせる。あるいは撮ったことがなくても、異なるジャンルを撮ることであられる経験と知識はとても多い。そして役にたつ。行動規制がなくなっても、すぐに自由に撮影に行くのはリスクがある。

 

風景や動物などではなく、ストリートフォト、フードフォトあるいは自撮りでもよい。異なるジャンルを撮ることで、いまは自分の写真力を高めるとき、あるいは未知の分野にトライする時期だと思う。すべての経験はプラスになる。なので僕のブログのタイトルも「つれづれフォトブログ」にしているのは日々 感じるものは何でも撮るという意味を込めている。ぜひ皆さん 何でも見てほしい。そして何か感じたら、今、眼の前にある事象を写真に撮ってほしい。

2020/06/25
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